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構内へ入って雨を避けると、龍之介は私のバイオリンを持ったままホームへ向かう。
そのまま龍之介の後をついて行った。
私は二駅だけで、龍之介の家はもうちょっと遠い。
濡れた電車のフロアで滑らないように、ポールにつかまる。
隣に立つ龍之介は吊革につかまっているけど、私は背が低くって、届かないから、いつも端っこを確保する。
最寄り駅に着くまえに、バイオリンを受け取ろうと龍之介を見上げた。
「龍? 私、ここだから、バイオリン」
「送る」
それだけ言って、バイオリンを肩から下そうとしない。
今までテスト期間なんかで部活がないときに帰りが一緒になって、クラスの数人で帰ることはあっても、送ってくれたことなんかない。
今日は、やけに親切だ。
「ありがと」
駅を出ると、小雨は止んでいて、傘はささなくってもよかった。
私のバイオリンを持った龍之介といつもの帰り道を歩くのは少し不思議だ。
「ねぇ、龍之介さぁ、今日、親切だね」
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