柚の傷

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「あ? 俺に付き合ってて雨降ってきたし。俺、いつも優しくない? 心外だわ」 嘘ばっかり。 「いや、いや、龍之介はいつもは優しくないわ」 そういうと、ははっと笑った。 龍之介って、優しい時もあるけど、全然優しくない時もあるから、わかんないんだよなぁ。つかめない。 「来週、期末テストだね」 「んー、柚はいいだろ。頑張ってるから」 「まぁね」 がんばってる。それは、本当。 別に天才みたいに勉強ができるわけじゃない。 ただ、部活以外は結構勉強している。それで成績がいいだけだ。 「柚、国公立狙いとか?」 「うん。国公立。私立はうち、無理」 大学なら、国公立じゃないといけない。 母に私立四年分の学費はお願い出来ない。父に頼めばなんとかなるかも知れないが、国公立を目指すのが先だ。 国公立へいって、公務員。 それが私の将来設計だ。 なんでもいいから、一人で生きていける力を持ちたい。 アパートの下まで送ってもらった。 龍からバイオリンのケースを受け取ってお礼を言う。 「んじゃな」 それだけ言って、駅へ帰っていった。 わざわざ送ってくれた。 なんか、なぁ。 嬉しいような、怖いような。 龍之介は何を考えているんだろうか。
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