柚の傷

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 水曜の午後から部活が再開して、文化祭と夏の試合に向けて、それぞれの部活のピッチが上がる。 土曜日から借りっぱなしになっていたバイオリンを持って、音楽室に入ると、もう安藤先輩は来ていて、チェロの調弦をしていた。 「こんにちは」 先輩たちに挨拶して、バイオリングループの定位置に着く。 「テスト、どうだった?」 みーたんが、バイオリンを出しながら聞いてくる。 「結構、良かったと思うけど、化学が微妙」 「柚はいいなぁ。私、補習は免れたとおもうけど、古典がかなりやばかった」 古典、白文暗記しろと言われて、何とかなったけど、確かに白文暗記できてないと、きつかったかもしれない。そんなテスト結果のおしゃべりが各所で広がっているのを聞きながら、調弦を始めた。 チェロを弾く安藤先輩をちらっと見て、土曜日に龍之介に言われたことを急に思い出した。 あと文化祭まで三週。 告白なんかするわけない。 あと、三週間、この人がチェロを弾くのを近くで見ていたい。
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