柚の傷

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 昼前の体育で、またプールの授業だった。 50mを順番に数回往復していくだけ。 まったく泳げないわけではないのだけど、高飛び込み台のあるエリアはかなり深くなっていて、全く足のつかない、そのゾーンでは、本能的に少しドキドキする。 レーンを半分分けて、向こう側では2-A、Bの男子が同じようにただ泳がされている。 龍之介が飛び込む。 親友の水の事故の話を聞いたせいか、なんとなく気になって、目で追った。 きれいに飛び込んで、クロールを始めた。 泳げるんだ。 これまで気にしたこともなかったから、驚いたけど、かなり上手に泳いでいる。速い。 上手いじゃん。 水泳。 水が嫌いになったりしなかったんだ。 私の番になって、女子のレーンで、平泳ぎをしていく。 深いゾーンに入りつつ、溺れるということを考えていた。 川で流されて、水が口に入る、息ができなくって、肺に水が入る。苦しいだろうな。 流されながら、岩に当たって、痛いかもしれない。 十歳かぁ。 十歳はあまりに子供だ。 そうやって亡くなるにしても、それを目撃するにしても。 想像自体が苦しくなった頃、プールの壁に手を付いた。
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