柚の傷

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「あっ」 「わ!」 ざわざわする楽器の音に集中しすぎて、準備室から出てきた人にぶつかった。 い、いったーい。 ぶつかった口が物凄く、痛い。 「あぁ、柚ちゃん、わるい」 顔を上げれば、安藤先輩だった。 安藤先輩が持ってた譜面台にぶつかったらしい。 「ごめんな……」 「っああ! ほっんとごめん! 口切った?」 痛いと思って口元を押さえていた指先が濡れて、見れば血がでていた。 慌てた安藤先輩が急いでポケットからティッシュを出してくれたので拭くと、サッと鮮血でティッシュが染まる。 おおおお。 血だらけ。 焦って、数枚のティッシュで口を抑えた。 痛い上に、なんか恥ずかしい。 「ゆ、柚ちゃん、保健室行こう」 「は、はい」 エスコートされるように保健室に連れていかれた。 途中、何度も謝られたけど、ボケっとしていたのは私だ。 保健室には丁度、先生がいた。 「ああ、なに? 口切ったの?」
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