柚の傷

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「譜面台にぶつかっちゃって」 「座って。ちょーっと見せてね」 そっとティッシュを取って見せる。 血は止まっているけど、痛い。 「んー、痛いな。でも、縫わなくてもいいか。消毒して、傷口テープ、貼れるかなぁ」 処置の準備をしてくれている間に、スピーチコンテストの選考会を思い出して、焦った。 「すみません、ちょっと連絡しないと」 携帯を取り出して、龍之介にメッセージを打つ。 『選考会、絶対出て。保健室に絆創膏貰いに行くから遅れる』 理由も言わないと心配するだろうから、絆創膏と書いたけど、傷口テープは絆創膏みたいなものだろうか。 もう選考会が始まる。 アルファベット順だから、B組には間に合わないだろう。 龍之介、ちゃんと読めるだろうか。 「柚ちゃん、今日は選考会だった?」 「あ、はぃ。今、遅れる連絡しました」 口を動かすと痛いから、モゴモゴおかしな話し方になる。 「ほっんと、ごめん」 「いえ」 ボケっとして譜面台に突っ込んだのは私だ。 でも、先輩の音を探しててぼーっとしていたなんて言えない。
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