柚の傷

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しばらく大人しくして、鏡代わりに携帯を開く。唇を見たら、傷の周りも赤くなっている。しばらく目立つなぁ。 痛いことは痛いけど、落ち着いてきた。 安藤先輩に、もう大丈夫だと言おうとして体を起こすと、ガラッとドアが開いた。 「柚、います?」 龍之介の声。 「あ、うん。柚ちゃん、口、切っちゃって」 「あ、そうですか」 先輩に返事しながら、龍之介がこっちを覗いた。 「ごめん」 係なのに、大事な選考会に行けなかった事を謝ると、龍之介はこっちを見て、眉を顰めた。 「ああ。痛そ。どした?」 「僕が運んでた譜面台の角にぶつかっちゃって」 先輩が申し訳なさそうに説明した。 「私、前見てなかった」 音に集中しようとして、目を瞑る勢いだったから。 「しょうがねえな、本当」 しょうがないっていう割には、心配してくれているようで、声が優しい。選考会をすっぽかしたことは、怒ってないようだ。 「縫わなくて良いって、先生、言ってたけど、口元、傷になったら、本当申し訳ない」 先輩が龍之介の後ろから気を使って言ってくれる。
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