柚の傷

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「傷跡ぐらい、できたって、なんともねぇよ」 龍之介が低く唸るように言った。 私に言おうとしてるのか、先輩に言っているのか分からない。 けど、一瞬で、その意味が私にはわかった。 私には、もっとすごい傷跡があるのを同じクラスの龍之介はきっと知っている。 「え?」 先輩が驚いている。 「いや、でも、柚ちゃん、女の子だしさ……」 「なんでもねえって言ってんだろ!」 先輩の声をかき消すように、龍之介がきつく言った。 あぁ。 女の子に傷があったらいけない。 それを先輩が私に言うのを止めようとしてくれた。 「龍之介、いいから。先輩、スミマセン。全然、大丈夫です」 「あ、ああ、うん」 ちらっと龍之介の様子を窺って、私を困ったように見た。 「じゃ、柚ちゃん、俺、そろそろ部活行くね」 「はい、スミマセン。後で行きます」 先輩、龍之介が私を女の子扱いしない酷い男友達だと思ったかも知れない。 本当は、その逆だ。
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