柚の傷

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「ああ、そこ、血、付いてるぞ」 デコちゅうにびっくりいるうちに、急に龍之介に指さされて見れば、制服のシャツの胸元に血が着いちゃっていた。 「あー」 このまま放って置いたらシミになりそう。 制服だし、早く洗わないといけない。 「洗う?」 同じ事に、気がついた龍之介が聞いてくれた。 ウン。 だけど、着替えないと、洗えない位置だ。シャツを引っ張って、どうしたものかと考えていると、龍之介が持っていたスポーツバッグを漁って、ばさっとジャージの上着を取り出してくれた。 「じゃ、これ、着て洗えよ」 ウン、ウン。 有り難くジャージを受け取って、龍之介がカーテンを引いてくれるまで待ってみたものの、龍之介はそのまま動かない。 「カーテン!」 「あ、ああ、カーテンか」 龍之介を追い出して、カーテンの中で龍之介のジャージを着た。 ブカブカで、スカートまで隠れるサイズ感だった。 シャツは夏だし、洗えばすぐ乾くだろう。 起き上がって、ジャージの袖を捲って、保健室の水道でシャツの血のついたとこを水で洗ってみたものの、ちょっとまだ血の色が取れなかった。 シミ抜きとか、置いてないのかなぁ。 そう思って、保健室の棚をキョロキョロしても、どこに何があるのか分からない。 「柚、何?」 「センセ。シミ抜き、聞いて」 「俺が?」 お前が! 他にだれもいないでしょ? ちょっと睨んでやると、ああ、と言って職員室へ行った。 そういうとこ。 先輩なら、きっと賢い大型犬の様に、さっと聞きに行ったよ。 駄犬め。 まぁ、気は効くんだけど、時々、抜けてる。 職員室が苦手なのかも。 でも、さっきの先輩とのやり取りは、本当は、泣きたい位、嬉しかった。
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