柚の傷

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 結局、部活の最後、1時間ほど参加した。 「痛々しいよ、柚ちゃん」 みーたんが心配してくれた。 「うん、痛い」 「譜面台、直撃したんだね」 「ボケてた」 もうちょっと背が高ければ、唇なんか柔らかいとこに当てなかっただろうけど、運が悪い。 部活後、先輩が片付けしている私のとこへ、やってきた。 「柚ちゃん、大丈夫?」 「はい。すみません」 「紫になっちゃったね」 口を歪めて、痛々しいねって顔をする。 唇、見られているのも恥ずかしい。 「はい。すぐ直ります」 「彼氏に怒られちゃったな」 え? あ、龍之介がきつく言った事で誤解されてる。 「彼氏じゃないです」 彼氏ではない。 誤解。 「クラスの友達です。選考会、出てたんで」 「ああ、そう」 先輩は、うん、と頷いたけれど、龍之介があんなキツイ言い方をした理由には、ならない。 先輩は知らない。 知られなくっていいと思っていた。 「あの、クラスの子、龍之介がなんか、変な言い方だったのは、私、火傷の痕があるんで、そのせいです」
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