柚の傷

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別に火傷の痕の事、人に隠しているわけじゃない。 知られなくっていい人にわざわざ自分から言わないけど、本当に隠したりしたら、私自身を否定してしまうようで、毎年水泳もやっている。 傷もの。 それでも、私。 「え? あ。ああ、そうなんだ」 先輩が、龍之介との会話を思い出すように、言葉を探している。 「クラスの友達は知ってるんで。多分、私が元々、痕があるの、気にしないように、って事で。悪い人じゃないんです」 「ああ、そういう。ごめん! なんか逆に悪い事、言った、俺!」 先輩が龍之介の言葉の意味に気がついて、眉間にしわを寄せた。 「いえ、先輩にも気を使わせて、すみません」 「いや、本当、痛いよね。口の傷って、最後、口内炎とかなるし」 先輩が気を使って軽い話題にした。 「わー、嫌なこと言いますね」 そう言って笑うと、先輩も笑った。 あはは。 重くならなくって良かった。
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