チェロとプール

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チェロとプール

 「おはよう、うわぁ、どしたの? 唇?」 甘夏ちゃんは朝イチで私の怪我について聞いてきた。 一晩でほぼ腫れは収まったけど、リップが塗れない程度に傷っぽい。 「昨日、切った」 「痛い?」 「んー、もう、ほぼ平気。大きな口、開けなければ」 朝のホームルーム、ギリギリに龍之介が教室へ入ってきた。 昨日の保健室での、でこちゅーが急に思い出されて、固まる。 「あ、昨日よりはマシになってる。良かったな」 「うん。ありがと」 どすっと自分の席についたから、普通だ。良かった。 担任でもある金子先生が教室に入って、私も前を向いた。 「スピーチの選考会、龍之介が通ったから、2年連続、快挙です。現国担当としては、正直、嬉しい!」 変な喜び方をしている。 「そして、期末テスト、結果、返します」 うわぁーと悲鳴が上がる中、ちらっと新井くんを見る。 後ろ姿、平然としている。 順番に帰ってくるテスト結果をもらって、開く。 うっわ、クラスの2番。 学年8番。 新井くんがちらっとこっちを見て、笑っている。 負けた。
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