チェロとプール

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 昼休みに、細川先輩に教えてくれたように、バイオリンの練習に音楽室に行くと、すでに誰かが来ていた。 一年生の吹奏楽の子が何人かで練習している。 「お疲れ様です!」 手を止めて挨拶してくれる。 1年生用の発表曲を合わせているようなので、邪魔にならないように、すこし小さめの第二音楽室へ移動した。 一応ノックして、開けたら、安藤先輩が、チェロの前で見慣れない一年生の女の子と話していた。 「あ、すみません」 案外、音楽室は空いていない。 何の話だろう。 告白とかだったら、どうしようかと、ドキッとする。 「いいよ、柚ちゃん、入って。練習?」 「あ、はい。いいですか?」 いいですか、って入ったものの、先輩と知らない女の子の前で練習するのは気まずい。 バイオリンを出していると、先輩が自分が祖父から教わったこととか、顧問の先生に聞くと良い、とか、チェロのレッスンの話をしているらしい。 あ、告白とかじゃなくってよかった。 あの女の子、チェロ弾くんだろうか。 ちょっと、いいな。 自分の携帯のチューナーアプリをつかって、調弦をして、基本の音階を始める頃には、一年生の女の子がお辞儀をして部屋を出て行った。 「すみません、邪魔して」 ちょっと安藤先輩に謝ると、安藤先輩も弓をとりながら、「ぜんぜん、邪魔じゃない」と言ってくれた。 部屋の端っこで、音階練習から、自分のパートへと移っていく。 部屋の中に安藤先輩がいるのが、正直、とてもやりにくい。 しずかちゃんだけは避けたいのに、ハズす。 「あ」 ふっと安藤先輩が笑った。 「俺が邪魔かな」 「いえ、下手なんです。すみません」
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