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「持ってるから、ここ座って」
言われるままに座って、先輩のチェロを抱かしてもらった。
「あ、ほんとは、もっとぐっと近寄っていいんだけど」
制服のスカートなのが悔やまれる。足に挟むので、ぐっと近づいたら、スカートが上がってしまう。
「んで、こう」
弓を渡してもらう。
チェロも弓も先輩の自前のだし、先輩が近距離で後ろに立つのも、心臓に悪い。
「ここ、弾いてごらん、音出るから。ここ、押さえて」
言われるとおりに弾いたら、チェロらしい低音が出た。
「チェロもサイズがあるから、自前で楽器あれば、柚ちゃん位、小さくてもできたんだけどね」
「はい。でも、沢田君、今すごく上手だし、私、バイオリンも憧れてたんで、いいんです。でも、チェロ、素敵だから、好きです」
だぁああああ。
チェロも好きだけど、先輩も好きです、って喉まで出る。
至近距離すぎて、口から心臓が出そう。
「ん、いつか、大人になって始めてもいいと思うし、ね」
「はい」
発表会までに気まずくなりたくないという、理性が働いて、そっとチェロを返した。
鋼の理性だわ、私。
こういう時にダァっと本音が漏れて、後から赤くなる位の可愛さがないかな、と自分でも思う。
小さいだけで、全然可愛くない。
勇気と自信がたりない。
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