チェロとプール

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「拓は、あれから全く泳げなくなった」 「地元じゃ、みんな、知ってるから。健太の事も。誰も何も言わなかったけど。ここ来て、去年、水泳参加しないので、なんか色々言われたらしくって、それから、なんかおかしくなって、不登校」 「来てないの?」 「あんまり来てないね。ほぼニート。まぁ、来ないと退学っていう程度には来てるか」 ははっと少し悲しげに笑う。 「拓、楽しくニートならいいけど、このまま行ったら、生きる意味ねぇとか言いそうなんだよな。……そしたら、俺、二人殺したことになるじゃんな」 柔らかい声で、そんなことを言うから、びっくりして横を見た。 龍之介は、じっと水面を見ていた。 「拓君、文化祭来る?」 「開会式は来るって。担任が必須って言ったらしいから。スピーチ、その後、すぐだろ? 俺が健太の話、持ち出したら、逃げるかもだけど」 「そっか。聞いてくれるといい」 「ん。って言うか、ま、丁度テーマが重くって、思いついたってだけだから。現国、パスしたら、ラッキーだなって」 「ははは。そういう事でいいよ」 水の中の足を蹴った。
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