チェロとプール

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文化祭を直前に控えて、今週も月曜日から木曜日まで授業は続くけれど、もうみんなそれどころじゃない。 私も朝練、昼休み、放課後、ずっとオーケストラ部にいる感じだった。 苦手なところを朝、昼と練習して、放課後の全体練習で合わせる。 練習に必死なのと同時に、安藤先輩と最後の一週間だと思って、チェロ姿を拝んでいる。 卒業までまだ半年もあるけれど、運よく廊下であったりしても、もう先輩のチェロ姿は見えないだろう。 彼女にならない限り。 彼女だったら、チェロ弾いてくれるんだろうか。 想像するだけで、にやける。 自分のために、安藤先輩がチェロを弾く。 あり得ない。 あぁ、すごいかも。 「どうした? 柚ちゃん?」 にやけの原因がいつの間にか目の前にいた。 「あ、白昼夢中でした。あはは」 「白昼夢って、妄想でしょ?」 バレた。 良い感じに言い換えたんだけど。 「はい。そうですね。上品にしてみたんですけど、妄想ですね」 「なんの?」 先輩が彼女の私にチェロを弾いている妄想、なんて言えるわけがない。 やばい、先輩のチェロの方向を見ながら、変な事言っちゃった。 「いや、それは、秘密です」 「面白いな、柚ちゃん。言えないような妄想してるのか」 先輩が、珍しく私を揶揄うように笑ったけど、それは誤解です。 決して変なことは想像していません。 「違いますよ。上品な妄想です!」 「上品な妄想ね」 くすっと先輩が笑った。 「だから、白昼夢って言ったでしょう?」 「そうか。そういうことか」 あはは、と笑って誤魔化した。
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