ただ正しく眠るため

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「私もね、いじめられてたんだ」  僕はいつかの宮先生の言葉を思い出す。そして深呼吸をして、息を吐き切った後の、少し体が軽くなった感覚が逃げて行かないうちに靴を履いて家を出た。今日も「いってらっしゃい」はなかったけれど、別に気にならなかった。  今日もよく眠れた。悪い夢を見ないで済むと、正しい朝がやってくる。 「だから、灰太くんの気持ち、わかるな。みんな勝手に助けてくれようとするけど、そんなの疲れちゃうだけだよね」  宮先生の声は空気よりもずっと質量を持っていて、それを吸い込んだ僕の体は初めて核を得たように、中心にひとつ確かな芯が通った。 「今はただ目を瞑ってればいいんだよ。私がおやすみなさいって言ったら、灰太くんもおやすみなさいって返してくれればいい。君が学校に来る理由なんて、今はそれだけでいいんだよ」
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