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宮先生の淹れてくれるコーヒーは苦いけれど、嫌じゃなかった。彼女が言うには、このコーヒーはわざわざ早朝に家で挽いてきたもので、とっておきらしい。僕にそんな大層なものを飲ませても意味なんてないのに、宮先生はいつもとっておきのコーヒーを出してくれた。だから、せめてもの礼儀として僕は砂糖もミルクも入れないで飲むことにしている。
「大人ぶっちゃって」
一つ結びにされている宮先生の髪が、彼女が笑うのに合わせて揺れていた。僕はその動きを目の端で追いながら、言い返す。
「もうあんまり苦くないです」
「おっ、いいねえ。じゃあ今度はとびきり癖のあるやつを持ってこよっかな」
「別に、いいですけど」
「ははっ、無理しないの。男の子だな」
僕の強がりなんて、宮先生には通じない。けれど、それが心地よかった。こんな感情を人に知られたら変に思われるかもしれない。いや、思われるだろう。でも、確かにそうなのだから仕方がない。
二週間前の出来事だった。
人に迷惑をかけることに疲れた僕は、久しぶりに学校に来てみた。時間というのは恐ろしいもので、僕は案外、クラスの連中のいじめのボルテージも冷め切っているころだろうと思っていた。
勘違いしていた、と言ってもいい。
実際のところ、現実は何も変わっていなかった。むしろいじめに関しては悪化していたし、周囲の僕を憐れむ視線も相変わらずだった。
午前中の授業が終わった段階で、僕のメンタルは限界を迎えていた。視界は不安定に揺れていて、声の出し方と歩き方がわからなくなった。
昼休み。体調不良で早退にでもしてもらおうと向かった保健室で、僕は宮先生と出会った。
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