ただ正しく眠るため

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 久々に登校した学校でグロッキーになって保健室に行ったとき、どうしても夜眠れない、ということを何かの話のついでに言ってみた。別に縋るような思いで訊いたわけでもない。ただ単に、保健室の先生ならば、何か効果的な方法を知ってるんじゃないかと思ったからだ。 「ねえ、灰太くんは寝る前に、誰かにおやすみって言ってる?」  だから、そんな質問が返ってきたとき、正直驚いた。 「言ってない、ですね。夜、というか夕方以降、親が家にいることってないので」  答えた後、しまったと思った。また、あの顔をされる。  この人も、可哀想というレッテルを慈悲深い顔で僕に貼って、勝手に同情する。 「じゃあ、これから私との帰りの挨拶は、おやすみなさいにしよっか」  こんな形で予想を裏切られたのは、初めてだった。  不思議なことに、宮先生におやすみなさいを言って帰ったその日、僕は不思議なくらいにぐっすりと眠ることができた。ベッドは小学生になってから与えられたすのこベッドで、夕飯もいつも通り、机の上に置かれていたスーパーの弁当だったのに、いつも見る悪夢は見なくて済んだ。  それから自然と、僕は毎朝学校に向かえるようになった。これが正しい眠り方なのだと知ることができたのだ。  宮先生。僕の中で先生という生き物に固有の名前が付いたのは初めてだった。
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