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リンネは惚けた様にラルを見上げて固まっていた。
少し肌寒い格好のリンネへと、ラルは自らの上着を被せる。
「何で……」
「約束したからな、リンネと。黒印を何とかしてみせるって」
ラルはリンネの手を取り、家へと引き入れる。
もう暴れる事はしなかった彼女だが、代わりにこんな言葉を、申し訳なさそうに投げ掛けてきた。
「あの。もしかして、私とラル……付き合ってたの?」
それは、今まで考えも付かなかった関係で、世間一般から見れば一応納得のいく見解であった。
こういった時に。
『思わずドキリとした』という言葉を選べば良いのだろうか。
何という無駄の無い直線的な質問だろう。
「え、あ、それは……!」
手短に結論を得たいリンネは下手に探りを入れない。
動揺からラルは、咄嗟にリンネの手を離した。
考えてもみれば。
「違うの? 同棲していたみたいだけど」
そう、もう数週間も普通に一緒に暮らしてしまっているのだ。
「ち、違うぞ! 空き家を借りた方が安かったし、リンネに何かあっても直ぐに助けられる。そ、それに寝る部屋も別だ! それから……」
一つ一つ否定の言葉を並べていくラルだったが、全部並べ終える前にリンネが吹き出した。
「な、何だよ?」
「ラル、良い人過ぎる。あと色々と真面目」
何て事だ。
一枚上手なのは相変わらずか。
「それに、優しい。……もし、ラルが否定しなかったら、私は……」
と、後半途端に声を小さくして。
リンネは上着に口元を埋める。
その姿には、何処か見覚えがあった。
記憶は失っても、リンネはリンネに戻る。
それは安心と同時に、苦い感覚をラルに落とした。
取り戻しても、また手放す。
積み重ねても、空っぽになる。
それが、リンネが歩んで来た人生だ。
孤独という意味では、何処か自分と似ていて。
ラルは一人、顔を曇らせた。
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