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損な人
◆
太陽が高く昇り、すっかり辺りが明るくなった頃。
リンネはのっそり目覚めた。
「ふぁ……良く寝た……」
身体を伸ばし、生欠伸を噛む。
両手を使って目をグリグリと擦ると、焚き火に薪を投げ入れるラルの姿が見えた。
「あ、ラル……おはよ」
「お前なぁ……!」
開口一番、不機嫌さが滲み出るラル。
「知らない男の前で、いきなり寝るヤツがいるか!? 何かされたらどうすんだ!」
「? ラル、私に何かしたの?」
「あ、いや。してないけどな」
「ほら、大丈夫」
リンネはクスリと薄く笑い、ラルの近くに座り直す。
艶やかな銀髪を揺らし、長い睫毛に陽射しを乗せて頬を緩めた。
今、こんな事を思うのは不謹慎かも知れないが、リンネは優れて美しい容姿をしている。
間違いなく美少女の類いに入るだろう。
「ラルは、これからどうするの?」
そんな彼女が相も変わらず、おっとり口調で聞いてきた。
摩訶不思議な雰囲気を纏う、透き通ったリンネ声色は、心地好くラルの反抗心を剥奪してしまう。
「当分の間は、予定変更だ。山を二つ程越えた先にある幻魔機関の本部を目指す」
「? どういう意味?」
「お前の黒印を祓ってもらいに行くんだよ」
突然のラルの申し出に、リンネは首を傾げたまま固まった。
感情こそ顔に出さないが、これは多分驚いている。
「金なら心配するな。途中の街で稼いだりする。お前の服とかも買わないといけないしな」
と、ラルは続けた。
途端にリンネは長い溜め息。
上着の袖で顔面を覆い、膝を抱えた。
「何だよ、嫌か?」
「違う。ラル、私の事を危ないって言ってたけど、ラルの方が数倍危ないと思う」
「いい?」とリンネは一言前置きをしてから諭す様に続ける。
「ラル、人が良いにも程がある。会ったばかりの人間に上着を献上して、祓い師への礼金や他人の服の心配までしている。損をする性格だと思う」
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