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「……うーん」
何というか、非常に痛い所を指摘してきたな、とラルは思った。
過ぎた事を悔やむのは柄じゃないが、思い返せば確かに損の多い人生だとは思う。
「人から何か言われたら、断れない。少しでも困っている人がいたら、自分の事を後回しにしてでも助ける」
「……分かった分かった。降参だ。 ──で? 俺はお前から上着を取り返せば良いのか?」
気恥ずかしくなり、彼女の指摘にあっさりと白旗を揚げたラル。
そして少しばかり意地悪な質問でリンネを困らせてみる。
リンネは上着以外に何も着ていないので、今ラルが取り返せば裸体を晒す事になる。
これにはリンネも少し頬を赤らめた。
「それは、ラル。やっぱりラルも男だって事? 昨日あれだけ見たのに……」
「え!? あ、いや! いいい今のは、そういう意味で言ったんじゃなくてだな!?」
耳まで真っ赤になって必死にラルが狼狽えると、クスクス笑い始めるリンネ。
「勿論、分かってる。ラル、初すぎる」
──コイツ。
ボヤッとしている様に見えて。
一枚上手だった。
少し意地悪してやったつもりが、逆にからかわれた。
「この場所から一番近い街に、私の荷物が預けられている筈。そこでラルに上着を返して、お礼をする。それから、祓い師のいる場所を改めて目指す」
「別に、礼なんて要らないぞ?」
「駄目。ラルは絶対受け取らなきゃ駄目」
リンネのヤツ。
身体の線は細いくせに、心の芯は太い。
意地でも礼をするつもりらしい。
本当に久しぶりだ、ここまで頑固な人間。
こういう性格は嫌いじゃない。
「分かった。約束する。礼は必ず受け取るよ」
ラルがそう言うと、リンネは微笑した。
成り行きだが、暫く旅の仲間が増える事になる。
黒印を持っている事以外、素性は謎だらけの少女。
旅路の果てに待つ運命線を、ラルはまだ知らない。
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