損な人

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 昼に森を出立して三時間後の事。  二人は川の主流に程近い街に辿り着いていた。  規模としては小さいが、堅牢な石造りの外壁に囲われ、人々にも活気がある。  ラルが懐中時計で時刻を確認すると、現在五時三十二分。  しかし辺りは既に常闇が支配し、街には橙色の明かりが灯っている。 「そっか、この辺りはまだ……」 「ああ。『夜の呪い』が強いんだ。市場に並んでいる品を見ても、野菜や果物は殆ど無い」 「確かに、食品は瓶詰めだけ」 「太陽が射し込まなければ、その土地で作物は育たないからな。まったく、厄介な呪いだよ」  商人や買い物客達で賑わう煌びやかな通りを三つ程抜け、二人は静かな広場の一角に腰を下ろした。  薄暗い事や旅人も多く立ち寄っている事もあり、リンネの格好が悪目立ちする事は無い。 「それで? お前の荷物は何処にあるんだ?」 「──覚えてない。見当も付かない」  素っ気無く、この発言。  普通の人間は怒る所だろう。  しかし。  少し大袈裟かも知れないが、ラルの御人好しは常軌を逸していた。 「そうか。まぁ、何か食って落ち着いてから探すか」 「……。」  それを聞くと、リンネは睨み付けるが如く半眼となり、軽く唇を尖らせる。
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