損な人

4/4
前へ
/62ページ
次へ
「えっと……どうかしたのか?」  ラルは苦笑いを浮かべた。  するとリンネは、艶やかな自らの銀髪に指先を絡めながら言うのだ。 「本当に心配になる。ラルはきっと、利用されるだけ利用されて、最後はやってもいない罪を押し付けられて捕まって処刑される。死体はきっと、川に捨てられて魚の餌」 「いや、ちょっと待て。何だ、その不吉な予言は」 「──嘘」 「は?」 「さっき私が言ってた事、嘘」 「俺が最後魚の餌になるって話か?」 「あ、それは現実になると思う」 「おい……!」  ラルが頬を引き攣らせると、リンネは一度視線を切った。  そこから転じて数センチの笑顔を浮かべる。  相手に。  分かるか分からないか。  伝わるか伝わらないか。  気のせいである可能性を否定出来ない程度の。  小さな小さな。  そんな笑顔。 「嘘って言ったのは、荷物の見当が付かないって所。本当は有る。正門から一番近い宿に預けて有ると思う」 「何故、そんな嘘を?」 「そう言えば、ラルが呆れて私から離れると思ったから。深く関わって、貴方が辛くなる前に」 「ますます意味が分からないな」 「──直ぐに分かる。あと、三週間程度だから」  的を得ない様子のラル。  だが正門近くの宿屋へリンネが向かうと、それ以上何も聞かずに同行してくれた。  この人は本当に御人好しだ。  本当に良い人だ。  心配になるくらい。  私と違って、良い人。  だから少し、貴方に心を許してしまった。  きっと私はまだ、誰かを必要としていたのだと思う。
/62ページ

最初のコメントを投稿しよう!

12人が本棚に入れています
本棚に追加