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 ◆  リンネの言った通り、正門の宿屋に彼女の荷物は預けられていた。  シャツやスカートだけではなく、靴や下着まで。  そして少しの携帯用食料と、ラルの三倍近い路銀。  斯くしてラルの手元に上着が戻り、リンネから謝礼金が出た。  普段は無償で人助けしているラルにとっては、貴重な収入と言える。 「一応聞くが、本当に貰って良いのか? 俺はただ、此処までお前を連れて来ただけだぜ?」 「ラルの感覚はきっと麻痺している、可哀想」 「勝手に哀れむな。ほら、そろそろ行くぞ?」  辺り一帯は宵闇に包まれているが、待っていた所で明るくなるワケでもない。  旅慣れている者は、この永久の闇をランタン一つで切り開いて脱して行くのだ。  ランタンを持ったラルとリンネは互いに近くを歩き、森の中へと入って行く。 「一応、聞く。本当にラルは、私を幻魔機関に連れて行くつもり?」 「お前、社会観が麻痺してんじゃないのか? 強力な黒印を祓うには、祓い師の精鋭が揃っている幻魔機関に依頼するのが最善策だ。此処からなら、一月以内には着く」 「……そう」  小さく、リンネが俯く。 「ああ、でもだ。立ち寄った村とかで黒印を見掛けたら、なるべく祓う。だから場合によっては少し、日数が掛かるかもな」 「私は構わない」 「よし。暫くは暗闇で野宿だが、平原を抜ければ日差しを拝める筈だ。その先の村で宿泊しつつ、取り零しの黒印を祓おう」 「うん……」  相変わらず素っ気なく、リンネが適当に返事を返す。  少し速く歩いてラルの隣に並び、半歩近寄った。 「ラル」 「ん?」 「ありがとう」 「そういうのは、全部終わってからだろ?」 「私は今言う」  終わらないと思ったから。  今口にしないと、永遠に失われてしまうかも知れないから。  この言葉も。  感情も。  想いも。  私自身でさえも。  全部、皆。
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