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「……ラル」
見惚れてしまいそうな綺麗な笑顔を、リンネは浮かべている。
「ありがとう。色々気を遣わせて、ゴメン」
「今更、何言ってんだよ。話なら、帰ってからゆっくり聞いて──」
「最後の日を、貴方と過ごせて良かった」
ラルは、言葉を飲んだ。
笑みを浮かべたまま、リンネの頬は涙で濡れていって。
声も、涙で震えていた。
「私の黒印の効果、ラルに言うべきか最後まで迷った。何も言わずに居なくなる方が、お互いに楽だったかも知れない」
ラルは動けなかった。
手を伸ばせば届くのに、今のリンネは触れれば壊れそうな程に酷く脆く映っていて。
「この黒印は、23日経過したら私を殺す効果を持っている」
そう言ってリンネは靴を脱ぎ捨て、次いで服も手早く脱いだ。
服を脱いだリンネは、身体に布を一枚巻いた格好になる。
こうなる事が分かっていて、予め準備をしていたのだろう。
「……でも、その後。身体が燃えて灰になって、その中から生き返る」
リンネは、動けないラルから更に距離を取って、涙を拭った。
「死んで……灰の中から、生き返る、だと……?」
リンネの言葉を反芻し、必死に思考を回転させるラルの脳裏に、初めてリンネと出会った時の風景が甦った。
やはりアレは、黒印が関係していたのだ。
「私、ラルに出会えて良かった」
「っ! リンネ!」
ラルは駆け出した。
本当に自分を情けなく思った。
彼女は、リンネは……。
ずっとずっと、計り知れない悲しみと向き合い続けていたのに。
「本当は、もっと他に伝えたい事があるけど。迷惑だと思う、から」
「待っ──!」
遠かった。
遅かった。
最早手の届く場所に、彼女とその心は無かった。
リンネは眠る様に目を閉じ、ゆっくりと倒れる。
そして地に伏す前に、身体は業火に包まれ灰となっていく。
猛火は周囲の草木を巻き込み燃え上がった後。
突如として消え失せた。
あの日と同じである。
そうして、ラルの目の前で。
灰の中から裸のリンネが現れる。
彼女は周囲を見回した後、ラルに向かって唇を開いた。
「もしかして、私を知ってる人?」
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