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「うん、大丈夫。この程度なら、直ぐに祓えますよ」
ベッドに横たわり、苦悶の表情を浮かべる少年を前にして、ラルは母親へと微笑んだ。
シーツを払うと、少年の胸には黒い痣の様な紋様が見える。
(千柱相当の印だな。此処にも、幻魔機関の取り零しが……)
「少し離れていて下さい」と、少年の傍らで両手を組んで祈る母親へ、ラルは言う。
そして、右手を覆う手袋を外して、ラルは少年へと近付いた。
ラルの右手は、精巧に創られた特別性の義手であった。
その義手の手背には、翡翠色の石が埋め込まれている。
「さあ、出ていって貰おうか」
ラルが右手で胸の黒痣に触れると、石は途端に緑色の輝きを放つ。
そして、少年の胸の黒痣は意思を与えられたが如く蠢き、少年から離れて行く。
光を嫌う様に天井へと立ち昇る黒塊を、ラルは素早く右手で掴み、圧殺した。
掴んだ右手の隙間からは僅かに黒煙が上がる。
「はい、もう大丈夫ですよ」
少年が穏やかな寝息を立てたのを見計らい、母親へと笑顔を向ける。
少年を抱き締めた母親は大粒の涙を流しながら、何度も何度も「ありがとう」を溢した。
感謝の言葉や意を笑顔で受け止め、謝礼金の話を丁重に断ってから、ラルは尋ねる。
「この村に、この子と似た症状の方は居ませんか? この時期に一泊させて頂いた恩もありますし。俺で良ければ力になりますよ」
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