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「……何、言ってるんだ? リンネ」
ラルが声を震わせる。
今、分かってしまった。
何故、彼女は一人だったのか。
何故、預けた荷物の場所が曖昧だったのか。
「まさか、お前。記憶が──」
目の前の事実を否定するように、リンネへと視線を這わせる。
彼女は、リンネは俯いて「ごめんなさい」と言った。
「私の事、知ってるみたい。けど、私は貴方の事、全部忘れてしまっている」
リンネだけど、リンネではない。
出会って色付いた感情を全て失い、無垢な白へと戻ってしまったかのような。
彼女の淡白な言葉は、ラルの胸の内を鈍く易々と抉った。
「──説明、してくれ。話せる範囲で良い。そうでないと、俺が納得出来ない」
「……分かった」
「なら、ほら。さっきお前が脱いだ服、取り敢えずこれ着ろよ」
ラルが散らばったリンネの服と靴を集めて彼女へと手渡した。
「あ、ありがとう……」
目を丸くしながらも、リンネはラルへとお礼を言った。
「俺が借りてる家が近くに有る。そこで風呂に入れ。話はそれからだ」
「……何て言うか、貴方って結構お人好し」
「かもな。前にも、同じ事言っていた奴がいたよ」
深い溜め息と共に、ラルは感傷に浸る。
リンネは。
本当に、今までの事を何も覚えていないようだ。
いや、一度死んで甦っても尚、記憶を留めている他が不自然か。
リンネが死ねば、彼女との思い出も関係性も。
心に秘めた想いも。
全部無かった事になるのだ。
「──改めて。俺の名前は、ラルだ」
彼女へと握手を求め差し出した左手。
ラルは再び、積み重ねる。
一度崩れてしまった、思い出の中のリンネを探す様に。
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