二人ぼっち

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 ◆ 「……私が覚えている最後の記憶は。集まった仲間達の前で、初めて黒印が発動した時の事」  風呂で灰を落としたリンネは、ラルが用意した白湯で口を潤した後、己の過去についてポツリと語り出した。 「記憶が、残っているのか?」 「あの日以前の記憶は残っている。一応、記憶が途切れる度、近くに居る人間には知り合いか尋ねるようにしている」 「成る程。だから第一声がアレなのか」  リンネは自分の黒印の効果は知っていた。  恐らく彼女の仲間達が黒印を解析して、事前に伝えてくれていたのだろう。  それを理解出来ているから、ある程度は柔軟に立ち回れるワケだ。 「……でも。どうせなら私は、過去も全部忘れてしまいたかった」  俯き、リンネは奥歯を鳴らした。 「……リンネ?」 「集まった大勢の仲間達は、よく私に言っていた」 ─必ず黒印を祓う─ ─私達が付いている─ ─時が経っても、私達の子孫がリンネを守る─ 「……そんな。そんな都合の良い事を、好き勝手に並べて……!」 「おい、ちょっと待──」  ラルの言葉を遮って、リンネの小さな手がテーブルを叩いた。  無機質な瞳は、徐々に濡れていって。 「なら、どうして黒印が消えていないの!? どうして私は一人なの!? 守れない約束なら、最初からしないでっ!」  悲痛な叫びだった。  こんなにも感情的になったリンネを、ラルは知らなかった。  これがあの時リンネが抱えていた、偽りの無い本心だったのかも知れない。 「……ごめんなさい。貴方に言っても仕方なかった」  リンネは静かに立ち上がると、逃げるように部屋から出て行った。 「お、おい!?」  ラルが慌てて後を追い、家の外へと歩いて行ったリンネの腕を捕まえた。  闇に溶けた街並みから流れて来る夜風は、酷く冷たく感じる。  リンネは、このまま姿を消すつもりだ。 「離して! 貴方に私の心は理解出来ない!」  こうやって憎まれ口を叩いて、暴れて。  人から離れようとしている。  周りの人間を傷付けないように。  二度と自分が裏切られないように。  必死で。  ラルは。  彼女のもう片方の腕も捕まえ、リンネと正面から向かい合った。  そして。 「──今は、一人じゃないだろ」  その言葉をブツける。  途端にリンネの抵抗は弱まり、彼女の感情は温かい涙となって零れ落ちた。 「俺が居る」
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