痛み

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 街に入った二人は、馬を入口付近の馬小屋へと預け、今日の宿泊先を散策がてら探す事にした。  『夜の呪い』は幻魔機関に近付く程弱くなっている。  祓い師達が団結して巨大な黒印を破壊しているからだ。 「……凄い、野菜や果物まで有る」  リンネが市場の品を見て目を丸くした。  此処も大きいとは言えないが、食べ物は豊富そうである。  作物が育ち難い『夜の呪い』の中とは、やはり生活の水準が違ってくるようだ。 「この街は黒印の影響も無さそう」 「だと、良いんだがな」  ラルは右手の感触を確かめながら、リンネの隣を歩く。 「人に憑く黒印は、その殆どが破壊された『夜の呪い』の残骸だ。砕け散っても、悪魔の力はそのまま残る」 「……。」  リンネは咄嗟にラルの服の端を掴んだ。 「誰かに突き刺さるまで、ずっとそのままだ。消す為には祓い師の力が必要だが、一般人にも消す事は出来る」 「……憑いた人が死ぬと、黒印も強さに関係無く消滅する。それが、償うという事だから」  リンネの言う通り、黒印は憑いた人間が死ぬと無条件に消滅する。  祓い師が存在しなかった時代は黒印を敢えてその身に受け、命を使って除去していた団体も存在していたくらいだ。  世界の禁忌に触れた罪滅ぼしと銘打って、彼等は先陣を切って生け贄となった。 「その性質を、実は幻魔機関は利用している所が有る。大きな黒印は破壊するが、散らばった破片は敢えて残す」  ラルは人々で賑わう市場を振り返った。  ある日。  残った破片が突き刺さり、黒印が刻まれる。  それは此処に広がっている日常の何れかを容易く打ち砕く。
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