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弱い黒印は基本的に放置されるが、それは人々の命で除去させる為だ。
償いという古い仕来たりを重んじる事が出来、世間体は英雄視される上、効率が良い。
ラルはそれを、取り溢しと表現している。
完全に黒印が消滅している区域なのか、判別は出来ない。
「だからその……暫く、滞在を──」
「うん。それが良いと思う」
僅かな間も無くリンネが肯定する。
黒い印を此処数ヶ月の内に見ていないか、人々に聞き込みをする。
3日も有れば終わるだろう。
「取り敢えず、3日」
「あ、ああ……」
驚くべきは、リンネの頭の回転の速さだ。
此方が与えた情報だけで、思考がもう現在に追い付いてしまっている。
ラルも舌を巻く程の、凄まじいまでの適応力。
「でも、一つ条件が有る」
「ん?」
「この前みたいに、空き家を借りたい。折角だから、ラルと同棲生活してみたい」
そして、強かな潔さ。
「お、お前意味分かって言ってるのか……?」
「さぁ」
ラルの問いを、相変わらずの抑揚の無い声色で軽く避けたリンネは、そのままスタスタと歩き出す。
ああ、何か俺遊ばれてる。
少し悔しそうに後を追ったラルだったが、リンネは俯く彼へと背中越しにこう言うのだ。
「……でも。ラルだからっていうのは、やっぱりあると思う」
「え?」
それ以上リンネは答えなかったが、艶やかな銀髪に隠れた彼女の顔は。
明らかに、紅潮していた。
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