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2日目の事であった。
この街にもやはり、黒印は存在していた。
それでも数は大した事は無く、夕方には騒ぎはピタリと収まった。
いつものように、ラルは街の人々から感謝だけを受け取り、早々にリンネの待つ家に帰る。
不安は杞憂に終わるだろう。
既に被害は終息に向かっていて、この街はもう平穏を取り戻しつつある。
最早、長居は無用なのかも知れない。
そう期待していたからこそ、3日目。
ラルが受けた衝撃は強かった。
「……っ!」
車椅子に腰掛けた状態で胸元の黒印を見せる少女。
そこに刻まれている黒印を見たラルは、絶望の余り言葉を失っていた。
リンネ程では無いが、かなり上位の力を持つ黒印。
破壊した『夜の呪い』の残骸が、稀に砕け散らずに塊となる場合が有り。
その大きさが、そのまま黒印の強さに影響をする。
「十柱相当の、強力な黒印……です」
ラルは少女から目を反らし、右手を握り締めた。
本来ならば、幻魔機関が処理するべき黒印である。
そのラルの態度を見た少女は全てを察したようで、溜め息を一つ吐いてブラウスのボタンを閉じた。
隣に立っていた、彼女の父親が思わず口元を押さえて涙を浮かべる。
いつもと違う、悲しい涙だ。
「あの、すいませんが……」
「良いわよ、別に謝んなくて。あんたの顔見れば分かるわ。そんなに期待してなかったから」
少女はあっさりと言って自走し、父親を残して部屋から出て言った。
代わりに、父親がラルの正面の椅子に腰掛ける。
「ラルさんでも、無理でしょうか……」
声は、震えていた。
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