痛み

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「残念ですが、俺には祓えない強さの黒印です。ですが、直ぐに幻魔機関に見せれば──」 「半年程前に、幻魔機関には掛け合いました。しかし、祓う為には莫大な費用が必要だと言われ。娘の命も、残り少ないと宣告を受けました」  祓う黒印の難度によって、幻魔機関は金額を設定しているが。  一般人に対する緩和は一切無い。  強力な黒印は、その命を持って償えと。  世界は遠回しにそう言っているのだ。 「少しでもお金を作ろうと働き、妻は倒れました……! 恨みました、何もかも……! ……ですが、そんな時。ラルさん、貴方がこの街に来てくれた。貴方なら、他の方の黒印を祓ったように、うちの娘も……!」 「──すいません」  希望に縋るように声と涙を絞り出す父親にラルは謝る事しか出来なかった。 「無理、なんです……!」  こんなにも。  今までこんなにも、心の痛む行為は無かった。 「俺には祓えません」  溢れる冷たい涙を、止める事が出来ない自分。  怒りと悔しさが、ラルの目頭を熱くする。 「……何故、なんでしょう……!」  消え入りそうな涙声で男は言う。 「どうして、うちの娘なんでしょうか……! 何故、味方である筈の幻魔機関は、助けてくれないのでしょうか……!」 「……っ!」  その場から逃げるように、ラルは部屋を飛び出した。  すると、廊下の突き当たりに車椅子に乗った少女が佇んでいた。 「話は終わった? じゃ、直ぐに出てって」  ラルは少女の横を通り過ぎ、「すまない」と言葉を残した。  いつか、こうした厳しい現実と出会う事にもなる。  そう覚悟していた筈なのに。 「期待させておいて、これかよ……」  過去は、乗り越えた筈なのに。  ラルの足取りは重かった。
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