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「……結局、今日は野宿か」
陽も暮れた頃、ラルは半笑いで河原近くの木の下に寝っ転がる。
あれから村で20人程の黒印を祓った。
謝礼の嵐から逃げる様に出立した為、中途半端な場所での休息となった事が、いつも通りで笑えた。
腹の虫は鳴くが、食料は底を突いている。
近くに川が流れていたのは不幸中の幸いであった。
少なくとも、飲み水は確保出来るだろう。
(ああ……しまった。せめて食べ物分けて貰うんだった。……あ、いや、でもなぁ。この辺も食糧難だって聞くし)
ラルは溜め息と共に自身の右手を顔の前に持って来る。
握れば、手袋の下からミシミシと金属が擦れる音がした。
(今は悪魔の呪いを祓う力より、食べ物が欲しいよな)
そんな事を考えながら目を閉じ、疲労感からラルは黒い眠りへと落ちて行く。
─ああ、旦那様。この子に祓い師は無理なのでは?─
─肝心の煌力がこれでは─
─全く、同じ兄弟だとは思えん─
周囲の落胆。
─お前は、代々優秀な祓い師を排出してきた、我がアートリス家の恥だ!─
いつも比べられてきた。
─右手を呪いに喰われただと!? この役立たずが!─
─アートリス家の人間が悪魔の呪いに遅れを取ったとなれば、世間の笑い者です─
─お前は二度と、俺の前に顔を見せるな!─
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