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「……いーの?」
彼女は、意外とすんなりラルの右手から上着を受け取り、裸身に纏った。
やれやれと、漸く少女の姿を正面から見るラル。
「……優しいんだね」
囁く様に言って、少女は薄く笑った。
今まで数多くの人々から黒印を祓い、感謝を受けてきたラルだが、初めて送られた言葉である
無垢で、何処か儚さを映す彼女の金色の瞳は、ラルの心を容易に惹き付けた。
こんなにも透き通った目をした人間を、ラルは知らない。
「……俺はラルだ。君は?」
右手を脱力させて彼女に訊ねる。
不安を与えぬよう、出来る限り穏やかな声量で話した。
「──リンネ」
彼女は。
いや、リンネは。
余った上着の袖で口元を覆い隠し、少し躊躇った様な仕草のまま、上目遣いで返答した。
「リンネ、か。一人旅か?」
ラルは両の腕を組んで考察する。
我ながら遠回しな問いであった。
リンネは小首を傾げた後、「多分」と頷く。
「何だよ、多分って。……まぁ、良い。一応忠告しておくが、その格好で夜に森を歩き回るのは危険だ」
「……くしゅっ!」
「取り敢えず、焚き火を作ってやるから。ほら、こっち来い」
ラルは手招きし、自身の荷物の元へとリンネを連れて戻る。
枝を集めて焚き火跡に投げ入れ、新たに種火を火打石で作った。
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