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蛭貝 荘
女の悲鳴が響き渡った。墨絵の物に間違いはないだろう。
逃げるしかない。
とにかくあのいかれた連中から、より遠くへ行くことだ。
森の中をひたすら走り続ける。
一人になった俺に出来る唯一の手段だ。
俺は烏見のような殺人鬼ではない。あのいかれた連中と戦う手段なんて、持ち合わせていない。
墨絵は棒を持ち、罠を探りながらゆっくりと歩いていたが、そんな事をしていたら、あっという間に奴らに追いつかれてしまう。
相手は蝸牛じゃない。疲労など関係なしに、森の中を走りまくり、俺達を捕らえて殺そうとしている、いかれた連中だ。
罠を恐れずに走り続けるしかないのだ。この森を抜ければ、何処かの道に出くわす筈だ。
道が見つかれば、何とかなるだろう。
もし、民家でもあれば、そこを襲撃して、車と金を奪えば良いだけだ。
都内に戻る事が出来れば、また女を楽しむことが出来る。
思わずにやけてしまったが、今は、この森を抜けだすことに集中をするべきだろう。
汗がやたらと流れてくる。ここまで懸命に走るのは、体育の授業以来だ。
息が苦しくなってきた。
まだ、森の中だが、少し休むか。
一旦、走るのを止め、樹木に凭れ掛かる。
両肩を震わせながら、荒い息遣いの音だけが虚しく響く。
呼吸を整えることだ。
俺達の無罪放免はあり得ない。護送車の中で、熟睡している間に何が起こったんだ。
気がついたら、あの集落の近くの森の中に放置されていた。
集落に近づいたら、いかれた連中が襲ってきた。
奴らの目的なんて分からない。
話しが通じるような奴らじゃないだろう。
頭の中を駆け巡るのは、絶望感に満ちた現実ばかりになってきた。
やってられない……。
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