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護送車
電子ロックで固定されたシートベルト。装甲車のような護送車。目隠しをされているから、今、何処にいるのか、何処に向かっているかも分かりやしない。
最も、乗り合わせている連中が全員、犯罪者となれば仕方のないことか。
俺は烏見 京矢。(からすみ きょうや)十人の人間を無差別に殺害した罪で、死刑の執行を待つ身だ。
実際は十五人を殺しているが、五人の殺害の件については、聞かれなかったからな。自ら答える気もなかった。
話したところで、結果は見えていたからな。
目隠しをされる前に、白い作業着のような服に着替えたりした時間もあったので、一緒に乗っている連中の顔は拝んでいたから、一緒にいる連中が誰なのかは知っている。
先ずは、墨絵 今日子。(すみえ きょうこ)七人を毒殺。美貌とスタイルの良さを武器にして、多くの資産家の男をたらし込んでいた。
次に蛭貝 荘(ひるがい しょう)婦女暴行と殺人。殺害した人数は五人。中々のイケメンと言うこともあり、女の方から近づいてしまったこともあっただろう。
そして、幼女を狙った犯行を重ね、殺害した幼女は六人の霧灯 識屋。(むとう しきや)幼女に猥褻な行為もしまくっていたとんでもない奴だ。太り過ぎた身体と不気味な表情から、大人の女には相手にされなかっただろうな。
最後に、もう一人は幼い少年に猥褻な行為を繰り返した上に、殺害もしていた霞谷 守次。(かすみたに もりつぐ)殺害した幼い少年は八人。かなりいかれた変態野郎だが、見かけは地味で普通の男だ。
全員、死刑の執行を待っている身だが、急に何処かへ移動することになった。どうせ殺されるなら、何処で待っていても一緒のような気がする。
どうせ、自分の犯した罪に向き合う気もなく、反省なんてしていない。どうせ死刑になるなら、もっと好き放題、やっておけばよかった。そう思っている連中だ。
身体に伝わってくる振動が粗っぽくなってきた。舗装されていない獣道でも走っているのだろうか。
耳の中に響いてくるタイヤと道が擦れ合う音の性質で何となく見当はつく。
今度の拘置所は山の中にあるのか。
何処でもかまいやしない。殺されるのを待っているだけだからな。
車の中で全く会話が出来ない環境なので、他の奴らがどんな思いでいるのかまでは知らないが、俺にとってはどうでもいい移動でしかない。
死刑が執行されるまでは、拘束こそされているが、自由時間のようなものだ。どうせ、この国じゃ死刑なんて、中々執行されないからな。
死刑判決なんて気楽なものさ。
そんなつまらない事を考えながらにやけていたら、やたらと眠くなってきた。
昼か夜かも分からない狭苦しい車内の中、睡魔に打ち勝つ気も起らず、俺は本能に任せることにした。
どうせやる事なんてないし、何かをやろうという気も起らない。
目が覚めるころには、目的地についているだろう……。
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