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目的地
身体に異様な寒気を感じ、目が覚める。
明るい。
背中から伝わってくる違和感。
上体を少し起こしてみる。
身体が自由になっている。
辺りを見回してみたら、樹木が生い茂っている景色が視界に飛び込んできた。
森の中なのか。
何故、自由に動くことが出来るのだ。
何が起こっているのか、全く理解が出来ない中、一緒に護送されていた連中も、俺と同じ状況になっていることに気づく。
連中も身体を起こしだしていた。
「何これ?どういう事?自由の身になっているんだけど」
墨絵がいきなり大きな声で話し出す。
「分からないけど、自由だね。釈放でもされたみたいだね」
霧灯も墨絵に供応するかのように話す。
「釈放はないだろう。けど、確かに自由にはなっている。ただ、ここが何処なのか、全く分からないけどな」
蛭貝が落ち着いた感じで答える。
「そうだな。ここが何処なのか分からないし、どうしてこうなってしまったのかも分からない。とにかく分からない事づくめだな」
「困ったね」
俺が発した言葉に、霞谷がぼそりとニヤニヤしながら答える。
何とかならないのか。その不気味な表情、と思ってしまう。
俺達は以前から知り合いだった訳ではない。会話が途切れるのに時間は掛からなかった。
静寂がやたらと重く感じてきたので、跳ねのけたくなってきた。
「皆でこの辺を散策してみないか。何か分かるかもしれないぜ」
特に何か有効な手段を考えていた訳ではないが、口火を切ってしまった。
沈黙と言う世界にこそ俺が求めてつづけた理想がある。だが、それは孤独と言う素晴らしい世界観が創り上げる環境の中に存在してこそ成立するものだと、ふと気づかされる。
いかれた連中ばかりではあるが、今の俺は孤独ではなくなってしまったと言う事なのだろう。
「バラバラにならない方が良いわね。五人でまとまって行動しましょう」
墨絵が賛同した。
「そうだね。ここに留まっていても、何も進展しないよね」
「同感だな。とにかく、動いてみるか。運動不足だったからな」
霧灯と蛭貝も賛同した。霞谷は言葉こそなかったが、コクリと小さく頷いた。
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