墨絵 今日子

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墨絵 今日子

 何故、こうなってしまったのだろう。  こんな言葉が私の口癖になってしまったような気がする。  常に『何故』を考えているけど、運命の悪戯と偶然で片付けてしまう。  けど、今回の件はそれらの言葉で片付けることは出来ない。  護送中に眠らされて、狂人どもが住んでいる集落の近くに放置されたのだ。私達が狂人どもに襲われることも計算済みで。  ここで、『何故』が必要になってくるよね。私は死刑の宣告を受けた。何時かは殺される身だ。毒を使って七人の人間を殺したからね。  お金が欲しかったからやったの。反省はしていないけどね。  そんな私を、こんな手の込んだ方法で、殺害する必要性はないでしょう。  分からない。  分かっている事は、生命の危機が確実に迫ってきていると言う事。  今の状況を考えたら、逃げるしかないよね。  『何故』を考えて、調べている余裕なんてないのだから。  烏見の言う通りなのだ。  ただ、私は毒を使って人を殺してきた。腕力には自信がない。  こういう時に頼りになるのは、烏見だったけど……。  色仕掛けが通用するような奴じゃない。奴はシリアルキラーだ。人を殺すことに快楽を覚えるラストマーダー。  奴は私と蛭貝を置いて、走り去ってしまった。蛭貝は婦女暴行と殺人。信用は絶対に出来ない。  一人で乗り切るしかないのだ。  どうやって?  逃げるしかないよね。  ただ、罠には気をつけないとね。  霞谷がトラバサミの餌食になってしまっている。恐らくこの森の中は、罠だらけと考えた方が良いだろう。  私は細長い棒を拾い、地面を突きながら慎重に歩き出す。  集落のある方向と反対の方向へ進んで行けば良いよね。何時かはこの鬱蒼とした森から脱出できるよね。  この森を抜けだすことが出来たら、今度こそ上手くやって見せる。死体が見つからないようにすれば大丈夫だよね。  大金を手にしたら、直ぐに国外逃亡をしよう。  やたらと現実離れした未来の事ばかり、頭の中に思い浮かべてしまう。  蝸牛のような進み方の現状で、未来はあり得ないのに……。
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