墨絵 今日子

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 どれだけ歩き続けたのだろうか。  時間の感覚は麻痺してしまった。  棒で地面を突きながら、慎重に歩いている効果はあった。トラバサミを二つ避けることが出来た。  もう大丈夫だろうか。  いや、これから先も慎重に動き続けた方が良いだろう。森の中は狂人どもが仕掛けた罠だらけと考えた方が良い。  歩いている速度がやたらとゆっくりからなのだろうか。頭の中は、相変わらず現状からは考えられないような未来に満たされてしまう。  ただ、そんな未来は、私以外の人間の足音に、無残に打ち砕かれた。  私は歩みを止め、樹木を背にして立ち止まり、辺りを見渡す。  三人の男が私に近づいてくる。  いつの間に追いつかれたのだ。全く気が付かなかった。  私は棒を翳す。  男達は関係なく私に迫ってくる。  ボロボロの布を縫い合わせたような粗末で汚れた服装。  誰もが目を背けるような醜い容貌。  私は声を上げて、棒を真ん中の男に振り落とす。  左腕で棒を払われてしまい、私は呆気なく捕らえられ、悲鳴を上げる間もなく押し倒されてしまった。  男達は強引に私の服を剥ぎ取り、下着姿にする。  張り上げても意味のない悲鳴。  一人の男が左手で喉を絞めるように抑え、右手で左腕を抑える。  二人目の男が両脚を抑える。  三人目の男が左手で私の右手首を抑えると同時に、右手に大きな肉切り包丁を持ち、右腕の付け根に力任せに振り落とす。  鮮血が飛び跳ねると同時に、喉が切り裂けるかのような悲鳴を上げる。  身体中の筋肉が強張り、鮮血だけでなく、ねっとりとした汗も身体中から噴き出し、呻き声を何度も張り上げる。  男は何度も包丁を叩き落し、包丁をグリグリと骨に喰い込ませてくる。  メリメリと何かが切り裂かれていくような音が響き続ける。  顔に飛び跳ね続ける鮮血。  腕と身体を繋いでいる物が、前後にスライドする包丁の刃に次々と切り裂かれていく感覚だけが、容赦なく伝わってくる。  右腕が身体から離れると同時に、身体がビクンと大きく震え、大量の鮮血が私の顔を深紅に染め上げた。  男は切断した右腕を袋のような物の中へと入れる。水分を多量に含んだ物が床に落ちた時のような音が、ボトリと虚しく響く。  血、涙と汗でグチャグチャになった顔。荒い息遣いだけが響く中、肉切り包丁を持った男はニヤリとした不気味な笑みを浮かべ、私の太ももに包丁を力任せに振り落とす。  包丁が骨にまで到達し、地獄の底に落ちたかのような衝撃と激痛に襲われ、世界の果てにまで響くかのような悲鳴を張り上げる。  包丁の刃が何度も容赦なく、脚の骨に叩きつけられる。  包丁の刃と骨が鎬を削る度に硬くて残酷な重苦しい音が響き、鮮血が間欠泉のように吹き上がり、呻き声を上げながら、上半身をビクン、ビクンと大きく震わせる。  骨が完全に折れて、脚がボトリと落ちたような感覚になる。  狂人どもに力任せに脚を引っ張られ、ブチブチと皮膚と血管が千切れていく音が脳内に響き渡り、脚が身体から離れたのを感じると同時に、大量の鮮血が切断個所から噴出しているのを感じ取り、そこから生命力も流れ出ているような感覚になり、意識もやたらと遠くへと離れていくような状態になる。  私の身体はどうなってしまうのだろう……。  分からない。  ただ、この地獄のような苦しみから解放されるなら、どうなっても構わない……。
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