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平日、のどかな昼下がりのカフェ。
私は、婚約者の隆とデートに来たつもりだった。
だけど……
「は!? どういうこと!?」
今、何を言われたのか、即座には理解し難くて、私は思わず叫んだ。
「だから、他に好きな人ができた」
じゃあ、この間歩美が見たって言ってたのも、見間違いじゃないの!?
私は、必死で平静を保ち、落ち着いて尋ねる。
「ねぇ、隆、2週間くらい前に産婦人科にいたよね? 別の女と一緒に」
「えっ、なんでそれを……」
明らかに狼狽する隆。
ほんとなんだ。
つまり、相手は妊娠してるってことよね?
今、うろたえてるってことは、それを隠したまま別れようとしてたってことよね?
むかついた私は、一気に怒りが沸点に達した。
「もういい!! 綺麗さっぱり別れてあげる。でも、1ヶ月後の結婚式は隆がキャンセルして。ちゃんと担当の鈴木さんに説明して、必要なキャンセル料は全部隆が払って!」
私は一息にまくし立てる。
それを聞いて隆はほっとしたようにうなずく。
「分かった。菜月の言う通りにするから」
そう言うと、隆はそそくさと立ち上がり店を出て行く。
なんて最低なやつ!
でも、どうしよう。
家族だけでこじんまりと挙げる予定だったとはいえ、この破談を報告して回らなきゃいけない。
それは気が重すぎる。
私は、どんよりとした気分のまま、帰宅し、家に着いた途端、堰を切ったように泣き崩れた。
あんな奴のために泣かないと思ってたけど、やっぱり、結婚するほど好きだった人をなくしたのは悲しいし、結婚するほど好きだった人を見知らぬ誰かに取られたことも悔しい。
私は、結局、母に連絡すら出来ず、一晩中、泣き続けた。
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