1〈アヒルの子は拾われる〉

2/16

12人が本棚に入れています
本棚に追加
/35ページ
 ✳  カチャと金属が重なる音がした。それと同時に体の機能が働き始め、肌に布の感触がした。  起きなければならない。重いまぶたを開ける。そこには見慣れぬ天井があった。いつものように薄汚れた天井ではない。しかも、いてもなら布団を被って寝るなんてしていなかった。 (そっか。私、死んで蘇ったんだっけ)  意味不明なことを自分自身に納得させるように起き上がる。あれが現実で、あの声の主が言っていたことが本当であるならば、ここは魔法が存在する世界なはずだ。 「おはよう。目を覚ましてくれて良かった」 「っ?!」  突然、声がした。驚いて横を見ると白髪の青年が椅子に座っていた。机の上には食事が置いてある。先程の金属の音はこれだったみたいだ。  白髪の男は夜空のような澄んだ深い青い瞳をしていた。鼻は高く、薄いくちびるが特徴の整った顔をしていた。義妹がこのような男をよく引き連れていたことを思い出す。いや、この青年の方が綺麗かもしれない。 「覚えているかな。君は路地裏で倒れていたんだ。心配だったから僕が泊まっていた宿に連れてきたんだけど……」 「路地裏……倒れてた……?」 「うん。傷だらけでね。一体どうして倒れていたの?」 「それは……」  答えるべきだろうか。「一度死んで生き返らせてもらったんです」と言うべきだろうか。もしそうなら私の過去も話す必要があるかもしれない。 (それだけは嫌だ) 「言いたく、ないです」
/35ページ

最初のコメントを投稿しよう!

12人が本棚に入れています
本棚に追加