1〈アヒルの子は拾われる〉

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 ✳  青年は「イーリス」と名乗った。カタカナの名前を聞いて、本当にここがいわゆる異世界なのだと改めて実感した。  彼の言う「人助けの仕事」の場所は少し離れたところにあるらしい。私たちは馬車に乗って移動することになった。 (馬車って思ったより揺れるんだ)  馬車に乗ったことがなかったため、おしりが痛い。ガタンゴトンと音を鳴らし、車輪が石に乗り上げるたび体が揺れる。道中、窓から外を眺めていたが、やはり元いた世界とは景色が違っていた。ついでに黒髪黒目の日本人の見た目の人は一人もいなかった。 (もしかして私の見た目って目立つんじゃ?) 「……黒髪黒目って珍しいんですか?」 「え……。あぁ、そうだね。僕の知り合いには、黒髪の人は一人しかいないかな」  いわゆる「アルビノ」のようなものかもしれない。どこかの国ではアルビノの人を商売に使っているとも聞いたことがある。目をくり抜かれたり、白い肌を切られたり──そう考えるとゾッとした。 (もしかしてイーリスさんも……?) 「目立つのが嫌ならこれを被るといいよ」  考え込んでいた私にイーリスは黒いマントを渡す。これなら髪が黒いのもごまかせるかもしれない。素直に受け取ることにした。  それから数分、ようやく馬車が止まった。私はすぐさま立ち上がり、外に出る。目の前には大きな建物があった。
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