1〈アヒルの子は拾われる〉

8/16
前へ
/35ページ
次へ
 イーリスは魔法で水を操った。それで普通なら手の届かない場所の汚れを落としているのだ。それが終われば風を操り、乾かしている。魔法とはなんでもありなようだ。  私には特に出来そうなことはなかったので、洗濯物を手伝うことにした。魔法があるため機械が発展していないのだろう。すべて手洗いでしていると聞いた。  水場には孤児院にいる子供たちと若いシスターが一人いた。 「……お手伝いします」 「ありがとう。助かるわ!えっと……イーリス様のお連れのノラさんよね。私はマギー。よろしく」 「はい」 「そこの洗濯物、干してくれると助かるわ」  マギーが指した方を見ると、二つの棒が立っており、間に紐があった。あそこに洗濯物を干すのだろう。言われた通り、シワがつかないように洗濯物を干す。  子供たちは楽しそうに桶に入った洗濯物を足で踏んでいた。ここは教会で孤児院。この子供たちは親に捨てられた、あるいは独りになった子供たちなはずだ。 (なのに、幸せそうなのはどうして?)  あんなに小さな子供たちが独りでも新しい居場所を見つけ、生きている。私とは全然違う。 「お姉さんの髪、黒いんだね!」 「えっ」 「あ!おめめも真っ黒だ〜!不思議〜」  足元に少女が立っていた。風に吹かれてフードが取れてしまったようだ。私は慌ててフードを被り直す。 「黒いの、初めて見た!」 「……そう」 「うん!皆は黒い人は怖い人だって言ってたけど、違うね!お姉さん、優しい人だもん」 「優しい人?私が?」  聞き返すと少女は満面の笑みで「うん!」と頷き返す。
/35ページ

最初のコメントを投稿しよう!

13人が本棚に入れています
本棚に追加