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4.出産
信じられないことが起きた。
これまでのことよりも、更に理解の及ばないことが。
マリエラ嬢が赤子を出産したのである。
「そんな馬鹿な……!」
出産に立ち会っていた看護婦が報告に駆け込んできたとき、ルカレッリ医師は立ち上がってそう叫んだ。私は思わず十字を切った。
「信じられません……」
「まったくですよ! 彼女は絶対に妊娠していなかった。赤子はどこから来たというんだ?」
激昂するルカレッリ。私も興奮していたが、それは歓びによるものだった。奇蹟が起きたと確信していたのだ。
「奇蹟ですよ! 彼女は選ばれた――だから、聖霊によって子を宿したのです」
「馬鹿を言わないでください! そんな馬鹿な話があるか!」
私は動揺して馬鹿馬鹿連呼している医者を尻目に、看護婦に向かって告げた。
「直ちに修道院長を呼んでまいります。詳細な記録を取っておいてください。あとで大司教に提出して奇蹟の認定をしていただくことになりますから」
ところが、そこで私は気が付いた。
看護婦の顔が蒼白なことに。
「そ、れは……やめておいた方が、いいかもしれません……」
彼女は震える声でそう言った。
「なぜです?」
「変なんです、赤ちゃんが……」
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