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するとルカレッリは表情を引き締めた。普段飄々としている彼がこんなに険しい顔をするのは珍しく、私も釣られて姿勢を正す。口を開いた彼の声は低く神妙であった。
「カザリーニ侯爵は強硬手段をお望みなのです。ご息女があのような妄言を吐かなくなるならば、どんな手を使ってもいいと」
耳を疑った。
「まさか。精神の問題は無理矢理治療してどうなるものではありません!」
「いいえ」
ルカレッリは私の目を見据えて言った。
「治療は可能です、残念ながら。精神医学にはあなたがご存じでない強硬的な治療方法がいくらでもありますので」
私は息を呑んだ。
それは今日まで私がここで見聞きしてきたことだけでも、十分に理解できてしまった。
可哀想にマリエラ嬢は、その『治療』が終わった後も『彼女自身』でいられるかどうか、非常に疑わしい。
緊張した私の胸中を察してか、ルカレッリ医師はパッと表情を和らげた。いつもの彼らしい朗らかな――時には人を馬鹿にしているようにも見える――笑顔を顔に貼り付ける。
「ソレを防ぐためにあなたをお呼びしたんですよ、フラテッロ・トマゾ」
「……私にできることがありますか?」
「もちろん」
彼は内緒話をするように身を乗り出し、口に手を添えた。
「私はすべてマリエラ嬢の演技だと疑っているんです」
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