2.マリエラ嬢

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「わたくしは祈りました。それまでの態度を改め、今一度わたくしが進むべき道を示してほしいと請いました。すると、光り輝く者がわたくしの前に現れ、『祈りの道へ進みなさい』という声が聞こえたのです」  彼女はほぅと溜息を吐く。鳶色の瞳は恍惚に浸っていた。 「あの時の歓び……あれほど素晴らしい気持ちは生まれて初めてでした。それでわたくしは確信したのです。わたくしは修道院に入らなくてはならない。そこにわたくしの使命があると」  私は暫し言葉を継げなかった。それくらい、彼女の演技は本物のように見えたのだ。  いや、本当に演技ではなかったのか。  今となってはわからないが。  私は唇を湿らせ、意を決して訊ねた。 「あなたには秘めた恋人がいたそうですね?」  マリエラ嬢は動じない。 「おりましたわ」 「その方への想いはどうされたのです?」  私の不躾な質問にすら、彼女は微笑で答えた。 「そのためですわ。わたくしが思い悩み、教会で祈りを捧げたのは」  結局、彼女の前に現れた『光り輝く者』は――「あれは聖霊だった」と彼女は言った――家も想い人も捨て、信仰に身を捧げるよう説いたのだという。その超常的な体験は彼女の迷いのすべてを断ち切った。  そう語る彼女の顔は確かに晴れ晴れとしている。 「わたくしの左手をご覧になって。これは教会で天啓を受けたときに付いた痣です。まるで指輪のようでしょう――これこそ、わたくしがイエスさまの花嫁となるよう定められた印なのですわ」  マリエラ嬢の左手の薬指。  ほっそりした指の根元を取り巻くように、赤黒い痣が浮かび上がっていた。
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