21人が本棚に入れています
本棚に追加
10.
朝礼が終わり、ビデオチャットから退出していく営業2課のメンバーたち。ほんの数秒で僕とマリさん2人だけの空間が作られた。どうしよう、少し緊張する。リコちゃんがあんなこと言うからだ。
「モトキさん、ごめんなさい」
「どうしたんですか?」
「わたし、ずっと考えていたの」
「……?」
「こんなこと、朝から変よね。わたしも変だと思う。でも、なんでだろう。いま伝えないと、ダメな気がして。このままじゃ仕事に集中できなくて」
「なんでも言ってください。大丈夫、僕がそばにいます」
「ありがとう、じゃあ」
「はい」
「……結婚してほしいの、わたしと」
──唐突なプロポーズ?!
前もってリコちゃんからは聞いてはいたけれど、にわかに信じがたい状況。というか、信じてすらいなかったけれど……それにしても、あまりに唐突だ!
こんな告白ってあるものなのだろうか。リコちゃんも言っていたように、たしかにマリさんは少し不思議な一面もある。だけど、さすがにこのタイミングでプロポーズは……。
「ダメ、かな」
「だ、ダメなんかじゃない」
「じゃあ」
「もちろん、よろ……」
────違う、ダメだ!!
リコちゃんと約束したんだ。一旦は断るんだった。2年待つ、民法改正を待つんだ。そうじゃないと、リコちゃんの人生を守れない。伊部リコを誕生させるわけにはいかないんだ!
「ごめん、マリさん!」
「え……?」
「もう少しだけ、考えさせてほしい」
「もう、少し……?」
「ああ、ちょっと気持ちを整理させてほしいんだ」
「そう、よね。……ははは、当然よね。こんな朝から逆プロポーズなんてされても、困るわよね。わたしったらどうしちゃったんだろ。ふふ、ごめんなさいね」
「いや、僕のほうこそ、なんだかごめん」
「いいの、信じているから」
「うん、ありがとう」
「じゃあね、商談行ってくる」
「ああ、頑張って」
僕らはそうして、お互いに手を振り合い、静かにビデオチャットから退出した。
……これでよかったんだ。
僕たちの関係はこれからも変わらない。いつか民法が改正されたときには、今度は僕の方から告白しよう。マリさんとリコちゃんは僕が守るんだ。しっかりとした男になって、ふたりを迎えに行こう。
そう、堅く心に誓った……。
────その時だった。
最初のコメントを投稿しよう!