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 ガターンッ!!  再び、ひきだしが勢いよく開き、僕はおもいっきり椅子ごと後ろに倒れる。床で頭を打ちそうになったが、椅子の背もたれのおかげでなんとかなった。 「ダメーッ!」  ひきだしから上半身だけ飛び出た状態のリコちゃん。また両腕を宙に向けていっぱいに広げ、元気そうなポーズを取っている。 「ねえ、そのポーズは必須なのかい?」 「こういう仕様なのよ」 「ふうん」 「大変なことになったわ、作戦変更!」 「作戦?」 「いますぐ結婚して!」 「なんだって?」 「いますぐ結婚しないと、取り返しがつかないことになる!」 「……というと?」 「未来が変わってしまうの!」  もともとそのつもりだったじゃないか……と心のなかで呟きつつ、僕は引き続きリコちゃんの主張に耳を傾ける。 「このあと、ママは赤羽で運命の出会いをしてしまうの」 「運命の出会い?」 「営業1課の社賀さんよ」 「ああ、あのエースで有名な」  社賀くんはうちの会社で、おそらく一番の営業マンだ。成績優秀な上に、取引先からの信頼も厚い。もう何度も表彰されているような人材。そんな社賀くんと運命の出会いとはどういうことだろう。 「赤羽駅の階段を踏み外したママを介抱するのが、営業1課の社賀さん。救急車を呼んで、病院に付き添って、ママの取引先にまで代理で商談に行って、挙げ句、案件を全部まとめ上げてきちゃって、大口の商談まで成立させて、それから……」 「待て待て、なんだそれ。人間技じゃない」 「そうなの! そこにママも惚れてしまうの!」 「なんてこった」  僕は、マリさんにフラれる……?  あれだけ大切に思ってきたのに。そんな別のやつが現れただけで、たったそれだけの理由で僕はフラれてしまうのか。僕らの絆はその程度のものなのか。
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