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3.
物思いに耽っていたら、時刻はもう8時50分。そろそろ朝礼の時間だ。僕はマグカップを手に取り、ぬるくなったコーヒーを口にふくむ。
今日のマリさんはどんな服装だろう。月曜日は商談があると言っていたので事務所に出社しているはず。きっと、ピシッとしたスーツ姿に違いない。
僕は左手で頬杖をつき、だらしない笑みを浮かべる。そのままの姿勢で右手に持つマウスを操作し、カーソルをスタートボタンに合わせようとした。
──その時だった。
ガタガタガタガタガタガタガタガタッ!!
突然、ものすごい勢いでひきだしが揺れだした。
「わあああああ!」
僕は驚きのあまり、我を忘れて椅子を倒しながら、慌てて後ろに飛び退いた。
……何が、起きた?
僅かながらの冷静さを取り戻し、すぐさまパソコンデスクのひきだしに目を向ける。すでに揺れはおさまり、異様なほどの静けさを取り戻している。なんだか逆に不気味なくらいだ。
中に……何か、いる??
そう、心の中で呟いた瞬間だった──。
ガターンッ!!とひきだしが勝手に開き、中からひとりの女の子が豪快に飛び出してきた。床にすたんと着地し、両手両足を思いっきり広げ、特撮ヒーローのようなポーズをしている。
「狭い! やっと出られた!」
急に大声をあげる女の子。言葉を失い、呆然と立ち尽くす僕。ふんわりと肩に流したオレンジ色のロングヘア、真っ白な無地のTシャツに、ライトブルーのデニムパンツ。会ったことも、見たこともない女の子だ。
というか、そもそもひきだしから人が出てくるわけがない。一体、何がどうなってしまったんだ。
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